春まだ浅き?
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


キリスト教系のイベントといえば、
冬場の年末にはクリスマス、
年が明けての聖バレンタインデーに引き続き、
深まる秋にお目見えの ハロウィンなるお祭りも、
結構 浸透して来た日本じゃああるが、

 「怪談でも冒険ものでも何でも来いの
  夏のバカンスシーズンはともかく、
  春だけがぽっかりと何もないのが、
  テーマパークなどでは微妙に困りものだったそうで。」

日本ならではの春の行事がない訳じゃあない。
何たって長い冬が明けての桜の季節だ、
芽吹きの季節、春が来たよカーニバルでも良いっちゃいい。
雪解けに花見にと気も躍る。
それが済んだらGWも控えているし、
進学や就職という新しい生活への門出にまつわる格好の、
ほややんと曖昧なお祭り騒ぎでもいけなくはないが。

 「春と言えば、復活祭“イースター”でしょうに。」
 「おおお、さすが生粋の欧米育ち。」

童顔に添えるようにかわいらしい手をぐうに握ったひなげしさんへ、
意味なく盛り上げ隊の七郎次がパチパチパチと拍手をすれば、
よく判らないままらしい久蔵も付き合いよく手を叩いたが、

 「でも、イースターってどういうお祭りなの?」
 「???」

玉子とウサギってのは、
でぃずにーとかアメリカのアニメでよく見かけたけども。
どういう意味があるんだろ…と選りにも選って、
盛り上げ隊の七郎次が訊けば。

 「それはですね。」

んんんっともっともらしく咳払いをし、
平八が答えてのいわく、

 「イエス・キリストが
  処刑されたが数日後に復活したことを記念するお祭りです。」

 春分の日を過ぎて最初の満月の翌日に催す。
 その日から1週間を指す場合もあり、だとか。

 「玉子は、そこから命が生まれる象徴として引っ張り出されたもので。
  ウサギも、多産な生きものなので象徴として以下同文、なんですよ。」

 「ふ〜ん。」

窓から射し入る光をはらみ、少し冷たい風にあおられ、
白く光ったカーテンがまるで船の帆よろしく大きくはためく。
ありゃま、何だか寒くなりましたねと。
手をついてた机から身を起こし、そのまま窓辺へ向かった七郎次が、
手際よくサッシ窓を閉め、乱れたカーテンを束ね直して戻って来、

 「アメリカのワーナーアニメで
  バスケットに玉子を詰めたウサギが出てくるのは、
  そこから来てるのね。」

 「そゆことですvv」

 お子さんのいる家庭では、
 茹で玉子の殻へマーカーで柄やイラストを描いたり、
 玉子の形をしたチョコレート菓子を、
 大人が庭に隠して子供たちが探したりするんですよと。
 楽しい行事だとの説明を付け足してから、

 「で、今年は4月8日がそのイースターにあたるのでvv」

のでvvと、殊更に“るん♪”と弾んで応じたひなげしさん。
手入れの良いさらっさらの明るい赤毛の髪を、
いつもは見ないカチューシャで押さえていて。
そのカチューシャには、

 「そんな大きいのがついててよく倒れませんね。」
 「………。(頷、頷)」

純白のファーは
この何日か急にやって来た“寒の戻り”の中にあっては
いかにも暖かそうだが、
耳当てと呼ぶには位置が高すぎるような?
にっこり微笑う平八だが、
着ているものがいつもの濃色のセーラー服なので、

 「何か良からぬ風俗関係か、
  深夜アニメのヒロインのようでもありますが。」
 「………。(頷、頷、頷)」
 「久蔵殿、意味判って頷いてますか?」

七郎次はまだ、
ちゃんと(?)通じていて例えたのかも知れないが、
そういうものに詳しいとは
到底思えぬ紅ばらさんからまで言われるのは ちと心外と。
自分のお顔と同じほどの長さはあろうウサ耳を
前髪の根元あたりへぴょこりとおっ立てたひなげしさんが、
ちょいと目許を眇めて見せる。
途端に、

 「〜〜〜〜。」
 「まあまあ、ヘイさんたら。」

せっかく可愛らしいカッコして、
怖いお顔になるのは無しですよと。
やはりセーラー服のひだスカートひるがえし、
ぴゃっと逃げ込んで来た次男坊、もとえ紅ばらさんをお背に庇いつつ、
白百合さんが宥めるように両手で押さえるようなポーズを取れば。
彼女の側でも本気で怒ったわけではないらしく、
すぐにもくすすと吹き出して見せ。

 「まま、冗談はさておいて。」

実は羽根のように軽い素材で出来ているという
だからこの大きさでも負担がまるでないウサ耳なのを、
ちょいと自分で撫でてから、

 「この女学園でも
  幼稚舎や初等科でボチボチ取り入れてるらしいそうですが。」

それでもまだまだ認知度が低いのが、
子供の日やGW以上にそっちの方へ馴染み深かった彼女にすれば、
何とも不思議なことであるらしく。

 「高等部でとなると、いきなり過ぎて何をすれば良いものか、
  戸惑いのほうが大きいらしいのは判りますが。」

でもね、大事なお祭りなんですのにと。
再びお手々をぐうに握った彼女だったのへ、

 「そこを主張したくてそれを持ち込んだのですね。」

話がそうと至ったところで、
今度は白百合さんがちょいと呆れたという吐息をついて。

 「シスターが
  叱るに叱れないと苦笑なさってたのもそのせいですね。」

滅多にない持ち物検査にて、
ひなげしさんのカバンの中からこれが出て来たものだから、
一体どういう寸劇のご予定ですかと、
微妙なお言いようをし、
でもでも没収はなさらなかったシスター・ドミニクだったのは、
そういう心情を察してくださったせいかも知れぬ。

 「別にないがしろにしてる訳じゃあないんですよ。」

外見だけなら十分に欧米人だが、
実は海外旅行の経験も少ない七郎次が、
宥める図というのも何ではあるが、

 「日本人で仏教徒だからったって、
  じゃあ明日は仏像を祀ってるところへ行って甘茶をかけるかというと、
  そんな風習があることさえ知らぬ人もいることでしょうしね。」

何でそんな詳しいのだと久蔵が小首を傾げたほどに、
むしろそこが怪訝な宥め方をしてから、

 「で? そんな主張をなさったからには、
  八百萬屋で何かイベントでも おありなので?」

教室の後ろ、コート掛けから三人分の外套を持って来て、
さあ帰りましょうよと態度で示しつつ。
ひなげしさんへお話を振り向ければ、

 「ええ、ウサギ型のクッキーが入ったチョコエッグを当てれば、
  四月いっぱいご優待っていう くじが引けますし、
  ウサギの玉子っていうマシュマロのメニューがありますよ?」

  そういや、四月って“卯月”って言いますよね?
  え? そうなの?
  …………。(頷、頷、頷)

それぞれ違う場所に割り振られてたお掃除当番を終え、
ちょっぴりお喋りをしてからさあ帰ろうと、
普通の女子高生という一日も当然あるのよという、
そんな彼女らの、放課後のヒトコマだったりしたのでありました。





   〜Fine〜 12.04.07.


  *ネズミーのイースターパレードの特集をテレビで見たもんでvv
   ただ、書き終えて気がついたのが、
   今日は土曜で学校は休みだろうってことでして。
(大笑)
   サンデー毎日な人ゆえの
   “やっちゃった”だということで…。(こら)

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